善き時

「一番幸せな日っていつだったんだろう」


一番ふわふわしていた時期は覚えている。
試行錯誤の末開設したホームページが軌道にのった頃。
今みたいに気軽に発信できるわけじゃなく
知識と技術がなければホームページを作成するにも
ソフトを買うなりしなければならなかった。
だが完全な道楽である。専業主婦である。


ワードでweb文書が作れるらしい。
無料でFTPソフトが入手できるらしい。
それだけを手掛かりに
そして何度も頓挫しながら、開設に至った。
webリングにも登録し閲覧者も増えていった。
その上昇期に気分も上昇を続け、日常の問題も忘れて
ふわふわ雲の上で過ごした。


あの一か月(絶頂期はそんなもんだ)が人生で一番
しあわせな時だったなあということは
これまでも何度も思ったことである。


今回は「幸せだった日」である。ピンポイントである。
思いついたのは
「母親が死んで相続手続きが終わった日」であった。


葬儀もひと悶着あったが、相続手続きも憂鬱の連続だった。
隠し子がいてくれたらなあと真剣に考えたほどである。


一番の難所の証券会社に最後の書類を提出した日のこと。
ばんざいと叫びたいほどの解放感だった。


と考えていて
「自分の出産や 孫の誕生じゃないのかい」と自分で突っ込んだ。
新婚の時でも子どものハレの日でもない。


私は、始まりよりも、穏やかな終焉が好きなんだな。
始まりは、いくらそれが晴れやかでも、いつか陰る。


人生で一番つらかった日、つらかった日々はいつかな?