術後四日目②点滴編

点滴針は5日、中3日で交換するきまりらしい。
前日「担当」看護師が言った。「だから明日の昼間交換ね」
そして自分は準夜勤だから、自分が来る頃には終わってるねと言った。


朝からそわそわ。
手術前、病室で針を刺す時に看護師ふたりが大騒ぎしたから、
今日もまた苦戦するに違いないと、落ち着かない。
だが待てど暮らせど交換の看護師は来ない。
午後、「点滴の交換 何時ですか」と問う。
「4時だよー」
3時半までに散歩を済ませ、トイレを済ませ、布団に潜り込む。
両腕をすっぽり布団で包んで温めておく。
少しでも血管を広げておくために。
待つ。
4時。来ない。待つ。4時10分。看護師が来る。
だが持っているのは点滴だけ。
「針は?」
「え?」
「点滴針の交換だと昨日聞きました」
針を押さえているテープに書かれた日付を確かめる。「あら 本当だ」
申し送りは? あんたら全部パソコンで管理してるんじゃないの?
患者の顔でも包帯でもなく、パソコン画面を見てるじゃないの。
「ちょっと待ってね 確認してくる」


4時半。このまま交替時間まで引き延ばすつもりか!とまで思える。
待ちくたびれたのと、
馬鹿みたいに身体を温めていたことに腹が立ち、被害妄想が入る。
本来患者が心配することじゃない。看護師の「仕事」だ。


5時。もう交替じゃないかと諦めた時。戻って来る。
「明日で点滴終わりって先生から聞いてない?」
「聞いてません」
「点滴のオーダーが明日の分までしか来てないのよね。どうする?」
「どうするって 私に訊かれても」


看護師が聞いてないことを患者の私が知るわけがない。
看護師に判断できないことを患者の私に判断できるわけがない。
ってか、していいわけがないだろ!
感染予防のために針を刺し直すって言っていた。
ここで私が「やらない」と決めて感染したら私のせいになるんかいっ。


「管は明日抜けるかもと聞きましたが 点滴に関しては何も聞いてません。
でも 私 点滴を刺すの難しいみたいですものね。
明日抜くのなら 苦労して刺すの 勿体ないですよね」
看護師は「腕を見せて」と袖をまくり、血管を指で探った。
そして「よし こっち」と呟き、部屋を出て行った。


で? 戻るなり、点滴を抜き、新しい針を用意した。
一度失敗したが、清々しい失敗だった(あっという間の)。
そして素早く2度目に挑戦し、成功した。
たまたまそこに別の看護師が入って来て、
私が「早かったですね」と呟くのを聞き「この人 名人だもの」と言った。


看護師によってここまで差が出るのか。
点滴も運試しなのか!
たまたま点滴名人が日勤の、その最後のチャンスを引き当てたわけだ。


ハズレの「担当」を引き当てた私だが、
尿取りパットの時といい点滴針交換の時といい、肝心なところ、
ぎりぎりのところで運は繋がっていた。