留袖狂騒曲

夏。義妹のところの女の子が結婚するということを聞いた。
義妹の子ではなく、伴侶の連れ子。我が家との血縁は全くない。
式に出てくれという挨拶もなかったから、
実母の方の親戚が来るんだなと、思った。


秋。式は12月だと言う。夫婦で出席してくれと言う。
伯母の立場だと留袖か? 結婚の時に買ったけど、着たことはない。


半年とはいえ、着付け教室に通った身だ。
受講料を取り戻すためにも、ここは自分で着つけてみよう!
と言うのは簡単だが。習ったのは四半世紀前。
半年の受講では、お稽古用の小紋で名古屋帯がせいぜいで、
留袖・つけさげ級など、最後の一回二回で袋帯をやったぐらい。


どのみち着物に慣れておかなくてはならない。
まずは小紋で練習して、そのまま数時間我慢。ご飯も食べてみる。
次に振袖(もう着ないから)で練習。うん。なんとかなるかも。


ここで留袖を出してみる。あれ? 長襦袢がないぞ。
袖が合えばなんでもいいのかな。
友人に電話して訊いてみる。「白だよ。色付きはダメだよ」


着物はセットで買うがよろしい。
どんな着物でも。素人が小物を合わせるなんて無理だから。


留袖を持って呉服店に行く。
寸法をとって長襦袢を注文し、その他小物を揃える。
もう引き返せない。何が何でも! マスターしなければ。
だが垂れもの(重い。滑る。高いから手汗が気になる)は手ごわかった。


再び友人に電話して、コツを問う。
「インサイベルトを買いなさい。あとは〇〇を△△したり……
なんなら着付けの特訓に行ってあげようか?」
とりあえずインサイベルトとやらを買いに行きますです。


おお。さすが道具は道具。さすが十二単まで極めた友人の助言。
着つけは格段に上達した。


だが。
前々日あたりから雲行きが怪しくなった。比喩でなく「雲」である。
雪である。12月の終わりに式なんかやるなあ!である。
「雪が降ったら もう スーツで行くかんね!」
着物はあとも面倒である。義母がグズグズ言ったが、知らんわ!


式場の場所の確認のために、ホームページを見たのである。
そこに結婚式Q&Aがあったから覗いてみたらば。
「招待客は親戚関係を中心にしましょう。お祝儀の額が違います」
はいいい?
「親戚関係の相場は〇円で △組招けば 費用の大半が賄えます」
私らは財布か!


結局雪はふらず、着付けもうまくいった。
帯を思い切りきつく締めたことによって楽になって、料理も全部平らげた。


で。


その姪っ子。
離婚しました。
我儘のかぎりを尽くして、離婚しました。