金と書いて②

実家には、もうひとつ金塊があった。
ずっと以前にちらとだけ見た。形が今回のものとは全く違う。
「もうひとつあったよね?」と父に訊いたが「ない」と言う。
おかしいなと思いつつも当人が言うのだからそうなんだろう
と引き下がったが、後から息子が「あった。俺も見た」と言う。


父が施設に入り、家の片づけも本格化したが、出てこない。
最後まで出てこなかった。
あの重さだから間違えて捨てるということはない。


「妹にやったな」 私の叔母である。


実は通帳も一度、全部紛失している。
家人が再発行に奔走したが、どれも残高が想定より少ない。
母の預貯金よりずっと少ない。
そういえば結構な頻度で「銀行に行く」「行きたい」と言っていた。
父はATMが使えないから窓口利用である。ちまちま引き出したりしない。
衣類は購入して運んだし、家電や保険もこちらで手配したし
買い置きの食料品も調達した。
父が必要とする現金など月にせいぜい10万なのに?


叔母のひとりが無心に来ていたのか。
金塊をひとつやってしまった後に
手元に置いておくとまたやってしまうと思って
もうひとつを慌てて娘に渡したんじゃなかろうか。


親の金だから好きにしていいんだけれど
もうひとつあれば、子どもたちに一個ずつ渡すことができて
話は簡単だった。それが叶わずとも


せめてそっちの金塊を残しておいて欲しかった。
紛失した金塊は、きれいに成形され刻印も押されていた。


出所不明と言われた今回の金は
おそらく祖父か曾祖父の時代のものだろう。
出入りの宝石商(そういう時代だ)に勧められて
子どもたち(妹含む)に一個ずつ購入したのではなかろうか。


新しい方は父が自分で購入したのだろう。
妹への見栄か、そちらを渡してしまったのだ 多分。


いっそ二個ともやってしまえばよかったんだ。


それが惜しかったんなら、私に渡してくれればよかったんだ。
父のやり方は私にとって最悪最低だった。


私に一切の権利があれば
金貨をたくさん買って遊ぶんだけどなあ…
最終的に子どもたちに遺すとしてもさ。