(あの)友人と この家人と

回転ずしの店に入る。初めての店。
入って数秒で「あ ここ 駄目だ」と思った。
追い打ちというか裏打ちというか。
メニューも楽しくない。品数少ない。
寿司も美味しくない。ネタも美味しそうに見えない。
とりあえず試したけれど、満足できた品はない。
それでいて会計はいつも(行く店)より高め。


これだけ不完全燃焼な寿司屋は、あれ以降だな。


あの(怖い話が好きな)友人とふたりで海沿いに旅行した時だった。
友人は魚介類が大好きである。
当時私はしゃけの切り身とエビフライぐらいしか食べられなかった。
最終日、友人は「私が奢るから寿司屋に入ろう」と言った。
もともと魚介類が苦手、寿司屋に入った事もない。
ぼそぼそと「かっぱ」「かんぴょう巻き」を食べる私の横で
友人は大将に景気よく注文を飛ばしていた。


あああ! いろいろ思い出されて来た。


利尻だか礼文島だか。
北海道を旅行した。離島ふたつに渡った。
「海岸でウニを取り出す作業をしています。
通りかかったふりをして声をかけると 味見させてくれます」
と教えられたとおり、友人とふらふら近寄って
「何をしてるんですか?」と訊いてみた。
「ウニだよ ほら」 ええええ。本当にか。てか、こんなにか。
友人は感涙して食べ始めた。私に差し出す。「要らない」
顔を背ける私に「ほんとうに? ほんんんとーに?」と確かめ
「こんな美味しいものを」と舐め続ける。


東北を旅行した。奥入瀬を歩く。串に刺された焼き魚を友人が買った。
何かの拍子に半分ほど落としてしまった。
土の上である。さすがにどうすることもできない。
歩き始める。だが立ち止まり。
「もう一本買っていい?」


貧乏旅行ばかりだから宿泊は国民宿舎など公営のものが多かった。
何泊かに一度、奮発して旅館をとる。料理が出る。
エビフライと引き換えに私は刺身の船盛(の権利)を差し出すこととなる。


ホテル中之島で、キャンセルした客の料理が回って来た(と思われる)。
予算内とは思えない料理が並ぶ。その中にふぐ刺しもあった。
なんとなく熱っぽかった私は、何も考えず、そのふぐ刺しを食べた。
ふぐかどうかも判らなかったんじゃなかろうか。
いつもなら「白い刺身」という段階で友人にあげていたのだが、
熱のせいか頭がぼーっとしていた。
あらかた食べたところで「これ 味しない」と言ったら、友人が激怒した。


東北で牡蠣を食べる。私は特に牡蠣が嫌いである。見た目が悪い。
フライならまだしも生ガキとか信じられない。
友人がどうしてもどうしても食べたいと言う。
松島観光の後だった。
友人と私の間にメニューなど並べて壁をつくった。



魚介類が食べられるようになったのは結婚してからである。
家人が「ひとくち喰ってみろ」としつこく言い続けたせいである。
「要らんかったら俺が喰う」と言われ
嫌々注文したアマゴだかイワナだか、一口食べて夢中で全部食べていた。
蟹も「面倒くさい」という私に身をほぐして「喰え」。
貝もグロい部分は引き受けて食べやすいところだけ食べさせてくれた。


家人も友人並みに魚介類が好きである。
彼は好きだからこそ「おいしいを共有したい」人。


「食べない」という私の前から嬉々として自分の口に運んだ友人。
娘を見ていると、この友人の顔が浮かぶんだよなあ…
家人が私の前に蟹のほぐし身を置くと、手を出して来る奴である。