学園祭

お金がないのは私だけではなかった。学生時代。
学園祭の予算。学校からの補助費と生徒からの徴収分で賄う。
上限は決まっていて、それ以上に集めることはできない。


中学2年。演劇。脚本演出の他、大道具の設計製作もやった。
ベニヤ板とか角材とか発注し、切って釘打って彩色する。
「レンガ もっと質感だして! 色を混ぜながら塗るんだよ」
と、この段階ではまだ余裕があった。
だが出来たものを舞台に置いたら全然足りない。
慌てて
B紙を貼り合わせ絵を描く。最初に用意しただけでは足りず
20枚以上繋いだのではなかったか。
そうなると


絵具が足りない。


「隣のクラスのゴミ箱に まだ中身がありそうなチューブがあった」
と言うから拾いに行く。切り開き中身を筆でこそげ取る。
再びゴミ箱を漁りに行く。掻き回していると背後に人の気配が。
振り返った私の前に、ポスターカラーの瓶が差し出された。
「よかったら」
ああ。心やさしきお嬢さまたち。


高等部では演劇や合唱の他に、展示や仮装部門がある。
展示に決まると、お嬢さまたちは一斉に街に出る。
段ボール集めである。あちこちの店舗に頭を下げて段ボールを貰う。


段ボール集めは競争である。出遅れると、よれよれのものしかない。
理想的なのは、ある程度の大きさと強度があるもの。
隣の駅まで遠征する。


ある時、段ボールを持ったまま、アイスクリーム屋さんに立ち寄った。
我が校の校則では許可証のない寄り道は禁止である。
(怖い本?の本屋も親と担任の許可印を得てから行くのである)
店を出たところで教師の影を見つける。
「逃げろ!」
段ボールを抱えて走るのは容易ではない。


その後ろ姿を想像すると、我ながら笑える。
教師も笑い転げていたのか、追いかけては来なかった。


続いて集めるのはトイレットペーパーである。
トイレットペーパーをどうするかというと
水で溶かして、洗濯のり(現代っ子は知るまい)を混ぜる。
「紙粘土」になる。これで展示品を立体的に演出するのである。


校内のトイレから持ち出す。勿論禁止である。
教師の目が光っている。
個室内で芯を抜き、潰す。それをスカートの中に隠す。
詳しく説明するなら、太腿の間に挟むのである。
小股内股で教室に帰る。



休日返上で作業である。
ここで担任によって運が分かれる。
「差し入れ」である。購買のコーヒー牛乳どまりか
マクドナルドまで買い出しにいけるか。
ダンディな美術教師(けちくさいことはしない)に万札を貰った時、
遣い尽くそうとあれもこれもと書きつけていたら、
そこはやっぱり上品なお嬢さまたち、
「お釣り 返せばいいのよ」とやんわり諭された。


ああ。アップルパイ食べたかったなあ。