涙とともにパンを ②

いつもお腹をすかせていた。
児童期。
胃は貪欲なのに腸は弱かった。


風邪をひくと、胃腸風邪でなくても絶食させられた。
「あんたはすぐお腹にくるからね!」
ひもじい。


回復に向かい、食パンを一枚与えられた。
(消化の悪い生食パンだよ)
布団の中で私はゆっくりゆっくりパンの耳を食べた。
ちびちび齧って口の中で溶かして嚥下する。
どれだけ頑張ってゆっくり食べても、やがて耳はなくなる。
白いところをこれまたゆっくり食べるのだけれど
耳より早くなくなってしまう。


私は楽しみを引き延ばすために、パンを丸めた。
きれいな球になるように丁寧に丸めた。
掌にのせて悦に入る。


その時。


パンは掌から落ちて転がった。


慌てて追いかけたが、パンはどこかにいってしまった。
部屋の中、落ちる穴もないのに。


涙とともにパンを探した者でなければ人生の悲哀は分からない。