娘の留学顛末 後編

他の国からの留学生との英語力の差に愕然とし、
自信をなくしてしまったのだろう。
早く誰かと会話しなければ! 仲良くならなければ!と
焦ったらしい。入寮して一日や二日で友だちが出来るわけがない。


「笑ってなさい」と私は言った。「暗い顔してる子には誰も近づかない。
自分から話し掛ける必要はないから 楽しそうにしてらっしゃい。
そのうちなんとかなる。あんたはいつもなんとかなってきた」
「分かった。なんとかするぅ」
「なんとかしなくていいの。なんとかなるんだって!
なんともならんかったら帰ってきたらいいだけの話じゃない」


クラスが始まれば、知り合いなんて出来るものである。
クラス内には親切な子も、親日の子もいる。
じきに娘の留学生活は充実したものとなる。


食堂で出会った女の子にクリスマス休暇に自宅に招かれ、
滞在先でスカイプを繋いできた。
っても私は話せないので、タイピングして娘に英訳してもらう。


「〇子は最高! いい子だわ」
『あなたはまだ彼女をよく知らない。それは私たちにとって幸運である』
「大丈夫! 〇子のクリスマスプレゼントは石炭にはならないわ」


トムとハックとどっちが好きかとか海底二万里の話とか。
母親の件ですっかり落ち込んでいた気分が浮上する。


その後、娘はやりたい放題。


同室の子の生活態度に意見して追い出したとか。


文章を添削してくれる学生に対し、
「この用法は間違っている」と言って、その指導者まで引っ張り出したとか。


学業にボランティアに課外活動に。遊びに。


充実した留学生活もいつかは終わる。
空港への出迎えは今度は私だった。彼氏とは留学中に決裂。
出発前、先生は「ひとまわりもふたまわりも成長して帰ってきます」
って言ってたし、感動の再会も悪くないかと空港に向かった。


入国者出口で待っていた。
視界にちょろちょろ小汚いガキが入るなと思っていたら
それが娘だった。成長してねえ! どころか退化しているではないか。
「こっちに来て! 荷物運んで」


あほか。捕まるわ。


帰国したら焼肉だと言っていた。
息子に「帰国のお祝い」と言ったら「祝いたいの?」と訊かれた。