じゃんけん!

近所の子どもたちが来ていた。お母さんもひとりふたりいた。
どんなシーンだったか忘れたが、
「はいはい じゃんけんね」と私が言った。


なかなか動かない子がいた。「なにしてんの じゃんけんだよ」
お母さんが言った。「うちの子 じゃんけん慣れてないもので」
「はあ?」 思わず訊き返す。


我が家では毎日じゃんけんだ。おやつおかず、どっちが多いか。


家人が会社から帰って夕食を摂る。子どもたちは両側に陣取る。
その視線に負けて家人は「これ やるよ」とおかずを分ける。
すかさず子どもたちは拳を突き出す。
殴り合いをするため
ではない。じゃんけんである。「さいしょはグー」
同じ大きさに見えるベーコンを、どちらが選ぶか決めるのである。
「何回勝負?」「さ……5回!」


ある年。合同キャンプに参加した。
見知らぬ一家と隣同士のテーブルとなり、
配給される食材を分け合うこととなる。
メニューはかつカレー。
福神漬けが袋に入れて配られた。それを私がふたつに分けた。
分けた袋をテーブルに置き、私は言った。「じゃんけん!」
相手のおかあさんはすごーーーく困った顔をした。
「そんな…… 私はどっちでも……」


食事が始まる。
我が家のテーブルでは、あらかじめ福神漬けを四等分し、
(等分にはなり得ないから、じゃんけんして選びとり)
食べ始めた。だが、隣のテーブルはひとつの鉢に入れたまま。
順に回して好きなだけ取る。
各自好きなだけ取った筈なのに、器にはまだ残っていた。
終盤、お父さんが訊く。「誰か福神漬け 要る人いるかな」
皆が要らないと言う。「じゃあ お父さんが全部もらうよ」
信じられない光景だった。


ああいう家だと「うちの子 じゃんけん 慣れなくて」になるのか。


ところで。
じゃんけんに勝っても、より多い方を選ばなければ意味がない。
同じ大きさになるように分けた皿を、彼らは懸命に見比べる。


しゃぶしゃぶの時。
「三枚入れるよー 一枚ずつだよ」「四枚入れた 二枚いいよ」
といちいち声を掛けるのが面倒になり、自分で入れて喰えと
ひとり一パック与えることとした。
出来るだけ近いグラム数のパックを三個買う。
子どもたちの前に並べて、じゃんけんさせる。
たかだか数グラムの違い。分かるわけがないと思うだろう。
私もそう思った。だが。
残ったのは一番少ないパックだった。


こうやって培われた能力、役に立つことがあるだろうか(反語)。