家人(夫)と父

結婚を決めてから親に会わせた。
父はいたく彼を気に入った。
即座に「ゴルフをやりなさい」と自分のクラブセットを譲った。
家人はテニスも野球もやる。ゴルフもすぐに上達した。
父は彼をコースに連れて行く。自分の友人たちに紹介する。
素朴で(ほどよく)不細工な彼はおじさんたちのウケがいい。


多くは語らないが、
家人の父親は、家人が「殺したいと思った」存在だった。
私に対する忍耐力は、その父親に育まれたものか。
という冗談はさておき、
だから、私の父に理想の父親像を重ねたのだろう。


伴侶に親の悪口は(どちらの親も)言ってはいけないと、
私はずっと口を噤んでいた。
家人は、私の父のいい面だけを見続けた。
もともと父は見事なまでの「ソトヅラー」である。


母の死後、父の問題が浮上してからも暫くは、
彼はその認識を塗り替えられないでいた。
私への攻撃も、相性の問題もしくは私の言動のせい。
父自身の欠陥とは思わない。思いたくない。


父が「死んでやる」「家に火を点けて首をつる」などと言うたび、
いちいち真に受けて胸を痛めていた。
次第に「聞きたくない」と心底辛そうにするようになった。
私などは死ぬ死ぬ詐欺だとせせら笑っていたというのに。


結局、最後には理想の父を、彼は失った。


家人は、理想の父親ではないとしても、双方の親よりは
ましな父親ではある。
それが一番大切なことではないか。


私もかくありたい。私たちの親よりは、僅かでも「まし」でありたい。