葬儀で泣く

大学で友だちとサイコパス度のテストをやってきた息子が、
いくつかの問題を私と娘に出した。そのうちのひとつ。
「ある男を殺しました。一緒にいた子どもも殺しました。なぜですか」


えー そりゃ ひとり残したら可哀相とか 一緒にあの世にとか?


「あんたはなんて答えたの?」
「泣く人がいないように」
「あ?」
「だって憎くて殺したんだろ。そいつのために泣く人間がいるのは
許せないんじゃないかな。だから子どもも殺した」


……


ずっと以前。
「結婚記念日だわ。何かちょうだい」と子どもたちに言った。
「なんで 私たちがあげなきゃいけないの」と娘。
「離婚しないでいてくれてありがとう の意。アイスかお菓子でいいよ」
娘の横で黙り込んでいた息子が顔を上げた。
「で お母さんはどっち?」
「うん?」 それはアイスかお菓子か、どっちがいいかということか?
どっちかな。アイスかな。
「離婚する時って 子ども選ぶんだよね。お母さんは誰を選ぶの?」
はいいいい?


突然のことに答えられないでいると、
「お母さんは どっちも要らないんだあああ」と泣き出した。



息子の思考回路がよく分らん。


だが、彼の理屈でいくと「葬儀で泣く人がいないことは不幸」となる。
あんたの祖父母の葬式、誰も泣かなかったねえ。
家族葬。
あまりのシラケっぷりに葬儀場の人が困惑していた。


親が死んで喪失感に苦しむことと、
親が死んでも悲しくもなんともないことと、
どっちが不幸なことだろう?