3月が姉の命日

死んだら病理解剖して欲しいと、姉は主治医に言った。。


献体と病理解剖を混同した父は反対する。
子どもの身体を傷つけることに対してではなく、
献体の場合の世間体を考えてのことだ。


「お父さんに反対する権利なんかない」 私は言った。
姉の最期の意志だ。
珍しい症例。大学病院。主治医への精一杯の感謝と。
そして。
「私 病気に負けたんじゃないよね?」


医師が時刻を告げる。
「ご愁傷さまです」と頭を下げる医師に、父は言った。
「決算月で私も大変でした」


解剖のため姉を病院に置いて自宅に帰る。
父はコンビーフを肴にビールを飲みながら、
葬儀の手筈の説明を始めた。


どうでもいい。


人が集まる葬儀の場で、悲嘆にくれて見せた後、
父は姉の祭壇に手を合わせることもなかった。


それから一年、父と口をきかなかった。
母も、父のために食事をつくることをやめた。


夢を見た。
姉の遺骨を抱いて知らない街を歩いている。
どこに行こう? どこに帰ったらいいのだろう。


夢を見た。
姉と商店街を歩いている。
「あ! すいか。すいかだよ。食べるでしょ。買って行こう」
手の中でそれは、バスケットボールに変わった。
「要らない」 姉は言った。「私には もう必要ないから」
泣いて目が覚めた。


でもやがて、夢の内容は変わる。
「ごめんね! 忙しいんだわ」と言って姉は走り去る。
ああ。生まれ変わったんだなと思った。