ケーキ

ケーキを貰った。


よく分からない味だった。不味いわけじゃない。
ただ「何がいいたいの?」という味なのだ。
私の味覚異常のせいではない。


モンブラン。いちごのモンブラン。
モンブランは栗だろう? 形がモンブラン?
クリームはピンクでイチゴと桜の塩漬けが乗っている。
形だけモンブランなら、それはそれでいいけれど、でもなあ。
食す。
栗が入っている。かと思えば、桜餡(?)も入っている。


なんかなあ。



10年前。某ケーキ店でイートインした。
ひとりでケーキ屋さんに入るなんて初めてのことだ。
アフタヌーンティが目当てだったのだが、時間が少し早かった。
まずケーキを食べて、美味しかったらそのままアフタヌーンするか、
なんてことも考えていた。


で?
美味しかった。
ケーキで感動するなんてことも初めてのことだった。
伝統的オペラだったと思う。
意識が天に昇っていくような、美味しさだった。


昨年、娘がそこのケーキを買ってきてくれた。
わくわく。
でも美味しくなかった。美味しんだけれど、次元が違う。


決して慢心して手を抜いているわけではない。
見た目は芸術的に美しい。技巧も最高級でなかろうか。
でも違う。私を幸せにしたケーキじゃない。



私はひとつのケーキに、要素はひとつでいいと思う。
けれど、今はひとつのケーキにいくつもの要素を入れ込む。
これでもかこれでもかと趣向を凝らす。


違う。そうじゃない。
極めた技をひとつだけ盛り込んでくれればいいのだ。
あのオペラのように。



シンプルな、でも底の知れない深さの、ケーキが食べたい。
ひとつの味でいい。
本当に美味しいものは、そのひとつの味をずっとずっと味わえる。
もっともっと味わいたいと思わせる。
邪魔するものなんて要らない。