息子のこだわり

今日も、あかん。昨日よりはましだが。
寝てばかり。マンガも読みたくない。音も駄目。
つらつら考えごと。
昔の楽しかったことを思い出すのがいいらしい。
私は嫌なことばかり覚えてる。でも手繰れば笑えることも多い。


息子、園児。園バスで幼稚園に通う。
バス乗り場にはたいてい一番に行くのだが、乗るのは二番。
幼馴染のごま女(傲慢な女児)が息子を押しのけて乗るから。


ある朝、息子は朝食を終えるとすぐに着替えて玄関に向かった。
「どこ行くの」「バス」「まだ早いよ」「いいの」
バスが来るまで4・50分はあった。だが息子は出て行ってしまった。
20分ほどで一度戻ったが、トイレに入ってまた出て行った。
ひとりでずっとバス乗り場である歩道に立っているのか?
いつもより少し(だけ)早く出て行く。息子がひとり、ぽつんと待っている。
幼児がこんなに長くひとりで外で一箇所で待ち続けられるものか?
(そしてそれを平気で放置できるものか? 母は)


やがて他の園児やごま女が来る。そしてバスが来る。バスが止まる。
ドアが開く。
真っ先にごま女が飛びついた。息子は押しのけられてよろめいている。
そして何ら抗議しない。


あほか?


さすがに見かねて、ごま女の襟首をつかんだ。「今日だけはだめ」
そして息子を一番に乗せた。


彼はそれで満足だったのだろうか?
40分以上ひとりで待つほどのこだわりを、押しのけられて捨てるのか?
いったい彼の「こだわり」は何なんだ。



さて。この、ごま女。
その後、あの大勢のアイドルグループの一員となる。
レギュラー入りし、投票ではそこそこ上位にいた。


幼少期毎日のように遊んでいたが、
小学校の高学年から息子は野球とバスケに参加して硬派となり、
彼女とは縁遠くなった。
その頃、その下のチビたち(園児)が我が家に遊びに来た日があった。
「私の邪魔をせんなら来てもいい」という約束で。
やがて小学生が下校する。息子もチビと混ざって遊ぶ。
暫し後、聞きつけて、ごま女が乱入した。
声を弾ませて「久しぶりに楽しいね! 楽しかったね!」と笑う。


ちょっと萌えた。


やがてデビューし、ますます縁遠くなった。てか忘れていた。
息子は大学生となる。ある日のバイト帰り。
自転車を走らせていた彼に、車が並ぶ。
ごま女が窓から顔を出し息子の幼名を叫ぶ。息子は慌てた。
裏道に入って事なきを得る。…ことなきを得るってなんだ。


ごま女は息子のファーストキスの相手。齢2歳。写真もある。
彼女がもっと有名になったら売れるなと思ったが(売れねえよ)、
やがて卒業(だっけ?)する。


可愛い顔が自慢の、わがままで傲慢な、時にムカつく女児であったが、
私に懺悔してくるなど、可愛い一面もあった。
彼女を含めて総勢7名の、上から下まで10才違いのガキどもとの日々。
あれはあれで楽しかったね。