パリの思い出

ビストロの壁に新しい画が飾られていた。
家人がをそれを指し「どこか分かる?」と訊いた。
「サクレクール」
聴き取れなかったのか、家人は得意げに「モンマルトル」。
「だからサクレクール寺院でしょう」
「あれ そういう名前だったのか」
「確か 聖なる心臓とかいう意味だよ」


我が家にはモンマルトルの露店で買った画が何枚かある。
モンマルトルには二回行った。
新婚旅行と、流産の後の傷心旅行で。


ご飯も食べた。
一回目の時に訪れた店が美味しかったので、そこを目指したのだが
休みだった。
仕方なく別の店に入った。そこも美味しかった。
さすがパリ。


街角で入った店のどこも美味しかった。


二回目の時の最終日、家人は熱を出した。
前の日にモンパルナスで墓石の花を触ったのがいかんかったと
家人は言う。なんの呪いだ。
残金以外の貴重品を置いて、ひとりでショッピングに出る。
ブラウスと何を買ったっけ。楽しかったな。


残った小銭を数えて、雑誌を売っているスタンドに寄る。
ベッドで留守番している家人にお土産。つまり、「そういう」雑誌。
買ってあげようと思って立ち寄ったはいいが、躊躇する。
そこへ粋にスーツとコートを着こなした若い男性が颯爽と現れ、
ビジネス雑誌を手に取った。
「ああ やっぱ(エロ本なんて)買えんわ」と諦めかけたその時、
彼は「プレイゲイ」を重ね、店番のおばちゃんに差し出した。
うわお。さすが(?)パリ。


さすがに中身まで吟味する勇気はなく(しても分らんし)、
買えるだけ適当に買って、部屋に帰る。


家人は喜んだが、
「どうやって持って帰るんだよ。検閲で見つかったらどうする」。
「私の下着の中に押し込んでおけば大丈夫だわ」
てか貧乏くさい格好のふたりに荷物検査はないわ(実際なかった)。


パリが好きなわけじゃないけれど、
パリの街は歩きやすい。方向音痴の私がひとりで歩けるぐらいだ。


郊外に電車で出た時、
どのホームから何時何分に出るのか、さっぱり分らん。
帰り、線路でいきなり列車が停止してドアが開いた。
周囲のフランス人も戸惑っていたから、アナウンスを聞き逃したわけでもない。
隣にいた女性が私に話し掛ける。咄嗟に「わかんない」。日本語だ。


後から家人が「今の人 お前が美人だ美人だって騒いでいた人だぞ」。
えええええ。顔を見る余裕なんてなかった。勿体ないことをした。
と言っても、たとえ英語でも会話することなどできないんだから仕方ない。


駅の売店で、聖闘士星矢が表紙の雑誌を見つけて買う。
フランス語話す星矢はまだしも、悟空には笑えたな。