(ついでに)息子の話

夫と娘の話を書いたら、彼のことにも触れなくては。


彼には遺伝子を感じない。
肌の色が違う。家人は色黒で、私は白い方だが黄色人種である。
だが彼の肌の色は白色人種のピンクがかった白である。
つむじが三つある。左利きである。そして。


温厚である。


ここに生まれ、ここで育って、どうしてこうなるんだ。
珍しく彼が「ムカつく」と言うのが聞こえたので覗きに行ったら
目覚まし時計に向かって言っているのであった。
その枕元にはぬいぐるみが所狭しと並んでいる。男子高校生。


大学生の時、職質を受けた(2回)。
その一回目。自転車で道を走っていて、警官に呼び止められた。
「こんな時間に何をやっている。授業中だろ。どこの中学?」
「……大学生です」
「はあああん?」
「これ 学生証です」
「……」 悪いと思ったか照れ隠しか。「俺 ここ 落ちたわ」
そこで息子。「昔は難しかったそうですから」 なんでフォローやねん。


またある日。交差点に立っていたら若い女性が近づいてきた。
息子はイヤホンで音楽を聴いていた。話し掛けてくるので抜いた。
時間を訊く。答える。彼女は続ける。「私 〇〇ビルに行くんです」
彼女の目線の先には息子の傘があった。俄雨が降り出したところ。
息子は彼女をそのビルまで送り届けた。


高校生の時、カッターシャツのボタンを半分飛ばして帰って来た。
自転車通学である。帰りに友人に絡まれて逃げようとしてそうなった。
「それ 虐め言わない?」「ちゃう。俺と遊びたかったんや」


小学生の時。顔に湿布を貼って帰って来た。
同級生に殴られたと言う。一方的に。
「逃げもせず抵抗もせず 2回目を受けたんかっ」
「2回じゃない」 息子は言った。「5回だわ」


小学生の時。私は娘の髪を結っていた。毎朝の日課である。
その日は編み込み。洗面器に水を張って櫛を濡らしながら結う。
結いあげて娘に「どう」と言ったら「まあまあだね」とか抜かした。
私は娘に水をぶっかけた。「口のきき方に気をつけろぃ」
息子が登校する。その後娘も登校したが、始業に遅れたらしい。
息子の教室に問い合わせが。
「なんて答えたの」「おかあさんと喧嘩しているので遅れます」
「喧嘩じゃないっしょ! おかあさんに叱られて でしょ!」
「喧嘩だよ」 息子は冷めた口調で言った。「くだらない」


娘が怒っていると彼は不思議そうに言う。
「あいつ よくあんな 怒ることがあるな」


我が家において、おかしいのはお前だ。
でも彼がいたから我が家は崩壊しなかったんだろうなあ。