娘の話

アメリカに交換留学後、教員採用試験に現役合格。
祖父母を介護する母親の理解者であり、時に援けた。


娘もまた、訪問者さんに誤解されている気がする。
彼女は父親似のぼけ星人である。


就職後、その後校長となる女性教諭に言われた。
「女はひとつふたつ穴がある方が可愛いけれど あんたはありすぎ。
10のうち8 穴があいてる」
言い得て妙すぎる。


彼女の評価すべき点は、己れを知っているところである。
高校で成績を伸ばしたから、もしかして自分は頭がいいと
勘違いしていないかと心配していたのだが、
留学審査のレポート(エセー)にちゃんと、
「私は飲み込みが悪いです。人の二倍頑張らないといけません」
と書いていた。


本当に悪いのである。
息子は知らない間に時計の読み方を覚えていたのに、
彼女には毎日毎日針時計を回して教えなければならなかった。
リットルデシリットルを覚えさせるのにひと夏かかった。
塩水の計算も、数字を入れ替えて何十回も解かせなければならなかった。


彼女の大学受験勉強を見ていて、
「私がこんだけ勉強したら東大だって受かるんんじゃね?」と思った。
もう勉強することなんかないだろうと思うぐらい勉強していた。
その頑張りには頭が下がるが、その頑張りを支えてくれる家族への
感謝が足りん。


そう。彼女は性格が悪い。
そとづらは(祖父母に似てか)よろしいが、
家庭人としてはどうよ てな感じである。


息子が小学生の時。遠足か校外学習の「しおり」を持ち帰った。
娘はそれに落書きした。色鉛筆で。
「消えないよぉ」 息子は消しゴムを投げ出した。
姉に抗議する勇気は、彼にはない。もともと平和主義者である。


だから代わりに私が仕返しをしてやった。
娘の教科書に落書きをしたのである。へへへ。ざまあみろ。


翌日帰宅した娘が「おかあさん やってくれたね」と言った。
「あんたが悪い」
「クラス中に回してやったよ。おかあさんがやったって」
「え?」
「皆 嗤ってたよ」
ざまあみろと彼女は言わなかったが、私の耳には届いていた。


娘は頭だけでなく性格も悪く、おまけに容姿も父親似だった。
この件に関して笑える話がいくつか、ある。


だが、高校教師となり、生徒に「可愛い」と言われるまでになった。


彼女は堂々と、エセーに「私は努力家だ」と書いた。確かに。
(私はそれを「努力型の人間です」と書き直させたが)
次は努力で性格を治してくれたら、と思う。
(この場合 治す か 直す どちらだろう)